2024年度介護報酬改定のゆくえ~介護老人福祉施設(特養)

こんにちは!東京都江戸川区のユニケア訪問看護リハビリステーションです。

この記事を執筆したのは8月の終わり頃ですが、まだまだ暑い日が続きますね・・・

小学生や中学生も、地域によっては夏休みも終わり、学校に通い始めている頃です。

私たち訪問看護師をはじめ、ご利用者様のご自宅に訪問されるヘルパーさんやケアマネさんもたくさんいらっしゃると思いますが、ご利用者様の中には暑いのにエアコンもかけず、灼熱の中で自室での生活をされている方も多いのが実情です。本当に危険です。

気象庁の長期予報では、9月に入っても残暑が続き、熱中症予防を呼び掛けています。

毎回毎回同じことを繰り返してしまい恐縮ですが、本当に熱中症にはご留意いただきたいと思います。

しかし、もう8月も終わりに近づき、暦の上では秋に突入します。まあ、この暑さで「秋」とはとても感じられませんが・・・

9月に入ると、あっという間に年末まで進んでしまい、月日の経過が早いことを感じさせられます。まだ気が早すぎますが、2023年もあと4か月あまりですので、悔いなく元気に過ごしてまいりましょう!!

本日のテーマ

今月は、7月と8月に実施された「社会保障審議会介護給付費分科会」にて議論された内容について、居宅介護支援・通所介護・そして訪問看護について取り上げてまいりました。

来年には介護報酬改定が控えており、これから年末にかけてますます議論が進み、方針が決まってくることは以前からお伝えしている通りです。

今回は「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム。以下「特養」)」について取り上げ、その中から特養において問題となっている「医療的対応」に絞ってご紹介したいと思います。

どうか最後までお付き合いくださいませ。

特養の人員配置基準

特養の人員基準については下記の通りになっております。

※ここでは、介護職員や計画作成担当者、生活相談員等については触れず、医師・看護職員に限定してご紹介することとします。

特養には医師の配置が必須となっております。

介護老人保健施設(老健)について、管理者(施設長)が医師である必要があるというのは知られていますが、特養にも医師の配置が必要であることは意外に知られていないようです。

上記の表では「必要な数」となっているだけで、常勤・非常勤は問いません。

基本的に常勤医師を配置するケースは稀であり、大半が非常勤(あるいは提携にて)医師を配置しているのが現状です。

医師の主たる仕事が「健康管理」「療養上の指導」となっており、例えば有料老人ホーム等で関わっている往診医のような動きは、基本的に想定されません。

詳細については後述したいと思います。

特養入所者への医療対応の現状

特養には医師の配置が必須とされているわけですが、あまり内情に詳しくない方は、特養には医療対応について万全な体制が構築されている、と思われるかもしれません。

しかし、現状はそうは言い切れません。

下記のスライドをご覧くださいませ。

配置医師数は、ほどんどの場合「1名体制であり、常勤でないパターンが大半です。

施設によっては、毎月定期的に行われる健康観察(診察)を限られた時間のみ行い、後の対応はあまり行わないというところもあると聞きます。

例えば夜勤帯において急変された入所者様がいらっしゃったとして、配置医師に相談し指示を仰ごうとしても、十分な指示を受けられなかったり、連絡自体つかなかったりする場合もあるようです。結局、施設職員では緊急時の判断がつかず、救急搬送する以外に対応する手段がなくなります。

上記のスライドには、急変時の対応についてはオンコール対応が6割位の施設で実施していると示されていますが、実際はどうでしょうか?

特養の配置医師の中には、ご自身でクリニック経営をされている先生、どこかの医療機関に勤務されている先生も多くいらっしゃいます。

この状況において、夜間帯に配置医師に相談しようと思っても、実際には難しいと考えるのは筆者だけでしょうか。

特養入所者の受け入れ方針

特養には、医療処置を要する方が多く入所されています。

入所受け入れを検討するにあたり、施設では自施設の受け入れ態勢を勘案するわけですが、上記のスライドでは「摘便」「浣腸」といった排便コントロールや、褥瘡の処置等を要する方については受け入れを断らない施設が多いと記されています。

しかし、「インスリン注射の管理」「胃ろうや経管栄養の管理」になってきますと、受け入れを断らざるを得ないとする施設は半数近くにのぼります。

入所者の中には、がんの末期状態で麻薬等による疼痛管理を要する方も想定されますが、そういう方を受け入れる特養は本当に少ないのが実態です。

上記は、新規で受け入れを検討する場合に、施設が行う判断基準について述べられています。

しかし、入所後に経口摂取ができなくなり、やむを得ず胃ろうを造設した場合には、それを理由にして退所を勧告することは基本的にできません。

「基本的」と申し上げたのは、介護保険法で「提供拒否の禁止」が明記されており、介護事業所や介護保険施設に対してやむを得ない事情がない限り受け入れを断ってはならない、とされているからです。

しかし、施設の受け入れ体制が整っていなければ、お断りするのはやむを得ないでしょう。

問題は、受け入れ後のご入所者様の経年変化です。

入所後の経年変化により、食思不振から経口摂取ができず、やむなくPEGを造設することとなるケースはあるでしょう。しかし、そうなったからといって簡単に退所させるわけにはいきません。

このような医療対応が必要な方が増えてくれば、現状の人員に多大な負担を強いることになりかねません。

当然、急変リスクも高まります。

そのときに現場の方々が頼りにするのは、看護職員であり、配置医師です。

しかし、前述の配置医師の状況では、何かあっても相談しにくくなるでしょうし、医師も入所者様の状況を十分把握できていない状況でいろいろ判断することは難しいでしょう。

そうなると、結局救急搬送を選択せざるを得なくなります。

救急搬送の選択をすることが悪い、といっているわけではありません。

国が特養や老健等に対して「看取り」を推進しようと施策を講じても、現状はそんなに簡単にはうまくいかないでしょう・・・ということなのです。

今回の報酬改定の主たる論点

分科会の資料では、特養に関する報酬改定への主たる論点を「小規模特養の収支改善」のほかに、先ほどからお伝えしている「配置医師問題」を取り上げています。

今後、特養には中重度の入所者が増加することが容易に見込まれる中、現状の配置医師や看護体制で果たして実現しうるのか、を論点に話し合われることは確実です。

筆者は、中重度者の方を十分に受け入れていくには、下記に留意すべきではないかと勝手に考えております。

●配置医師基準の見直しと訪問診療の許容

現在、特養には医師を配置することが必須となっており、報酬には医師の配置に関する費用も含んだものとなっています。

しかしこれでは、中重度の方を十分に受け入れることは難しいと思います。

有料老人ホームのように、訪問診療クリニックの診療を認めることも必要ではないでしょうか?

現状では、一部の例外を除き、在宅療養支援診療所による保険診療は認められていません。

他科受診はもちろん問題ないのですが、定期的な訪問診療を特養にも認めることで、例えばオンコールにも配置医師よりも十分機能させることが期待できます。

●報酬自体の見直し

配置医師をこれからも義務付けるのであれば、今の報酬体制や加算状況ではとても不十分です。

拡充が必要かと思われます。

●外部連携の許容

先ほど、特養にも訪問診療の介入を認めるべきであると述べましたが、それに関連して訪問薬剤の導入やセラピストのような専門職の連携を広く認め、自施設のスタッフでは補完しきれない部分を外部サービスで保管できるような状況にできるとよいのではないか、と考えます。

まとめ

特養に限らず、いわゆる施設系の事業所においては、入所者様の状態急変は不安材料の一つとなっています。

これが夜間早朝であれば、人員が少ない中で対応することになるため、いざとなった際に医師や看護師に相談しにくい環境下に置かれることは得策ではありません。

「配置医師」問題については十分に協議する必要があろうかと思います。

現状の配置医師問題が解決しきれないのであれば、先ほども申し上げた通り訪問診療クリニックの保険診療を認めてもよいのでしょうか?

ますます高まる医療依存度の高い方や中重度者のニーズ。

特養が本来の役割の一つである「終の棲家(実際は難しいですが)」を実現するためには、十分対応できる体制づくりと報酬体系の構築が重要であるといえるのではないでしょうか。

本日も最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。