令和6年度診療報酬改定の行方―訪問看護③

こんにちは!東京都江戸川区のユニケア訪問看護リハビリステーションです。

さて、前回と前々回のコラムでご紹介いたしました通り、2024年は「介護保険法・介護報酬」「診療報酬」「障害福祉サービス費」の「トリプル改定」が行われます。

しつこくて申し訳ありませんが、先日行われた「令和6年度(介護・診療報酬)同時改定に向けた意見交換会」という会合で、訪問看護に関して提起された

(1)更なる高齢化を見据えた訪問看護の役割等
(2)地域のニーズに応えられる訪問看護の提供体制

(3)介護保険・医療保険における訪問看護の対象者

(4)介護保険と医療保険の訪問看護に関する制度上の差異

の論点の中で、今回は「(3)介護保険・医療保険における訪問看護の対象者」「(4)介護保険と医療保険の訪問看護に関する制度上の際」について取り上げてまいります。

今回が本テーマの最終回となります。皆様、どうか最後までお付き合いいただけますと幸いです。

訪問看護サービスの基本構造

上記の資料によりますと、国内における訪問看護サービスの利用者数は100万人を超えており、そのうち介護保険の利用者が約6割、医療保険の利用者が約4割という構成となっています。

後述しますが、訪問看護サービスは他のサービスと異なり「介護保険」と「医療保険」に大別され、これにプラスして様々な「公費(生活保護・自立支援医療・指定難病等)」が加わるため、制度を理解することが難しい現状があります。

訪問看護事業の基準

訪問看護サービスの原点は、他の介護サービス等と基本的には同じです。

上記の資料の通り、人間の尊厳を重視する観点から可能な限り居宅で生活(訪問看護の場合は「療養」ということが多い)し、「自立」した日常生活を支援することです。

先ほど、訪問看護には「介護保険」と「医療保険」が混在すると申し上げました。

そもそも両者は制度が異なりますので、理解するのは難しいのが現状です。筆者は訪問看護ステーションの保険請求のお手伝いをさせていただいていますが、制度上の違いがわからずお困りの事業所様がたくさんいらっしゃるのです。

さらに上の資料を見ますと、訪問看護サービスには2種類存在することがわかります。

訪問看護サービスの大半は「指定訪問看護ステーション」になります。

指定事業所ですから、人員基準・設備基準・運営基準が細かく定められており、それを遵守しないと行政からの指導を受けることになります。

また訪問看護の指定権者は、介護保険の場合都道府県や特別区・政令市等になりますが、医療保険の場合は、地域を管轄する厚生局(厚生労働省の部局。関東の場合は「関東信越厚生局」)となり、届出先も異なります。

もう一つの形態は、いわゆる「みなし指定」といわれる診療所・医療機関等です。

「みなし指定」ですので、指定訪問看護ステーションと違って基準は緩やかです。

例えば、看護師の数は「適当数」となっております。医療機関であれば、設備基準等も十分クリアしていますので、共用が可能ということなのでしょう。

その代わり、指定訪問看護ステーションよりも報酬点数(単位数)は低い設定になっています。

これだけ見ても、訪問看護サービスの制度設計は複雑であり、普通の方にはなかなか理解しがたい内容であることがイメージできるかと思われます。

訪問看護における介護保険と医療保険の違い

制度設計が複雑であることは前述の通りですが、もっと複雑なのが運用に関する事項です。

とくに、「介護保険」と「医療保険」の適用関係がわかりにくいのです。

訪問看護における基本ルールの一つとして「介護保険優先の原則(障害サービスにも同様のルールがあり)」があります。

このルールは、介護保険被保険者(かつ認定が出ている方)であるご利用者様に訪問看護サービスを位置づける場合は、原則として「介護保険」が優先されるというものです。

ちなみに介護保険の場合は、区分支給限度基準額の範囲内であれば、1日あたり(週あたり)の利用回数に制限はありません。

では、介護保険の適用にならないケースにはどのようなものがあるのでしょうか?

簡単に申しますと下記の通りです。

・主治医から「特別訪問看護指示書」が交付された場合(最大14日間)

・厚生労働大臣が定める疾病で「別表7(ガン末期、パーキンソン病等)」に該当する場合

・介護保険の被保険者でない場合、あるいは介護認定が出ていない場合

は、介護保険ではなく「医療保険」の対象になります。

この内容、私達訪問看護師であれば基本事項なはずなのですが、意外に理解されていない方も多いのが実情です。ましてや訪問看護に携わらない方であれば、正直難しい話かと思われます。

しかもよくある話として、通常介護保険適用のご利用者様で、月途中で特指示が出て「医療保険」に切り替わるというケースも多いのです。この場合、当月において介護保険と医療保険が混在することになるのですが、ケアマネさんとの情報共有が大変であり、保険請求の間違いが起こりがちになります。

制度上の差異をどう理解し、問題を解消すればよいのか

今回の意見交換会では、介護保険と医療保険の対象者の状況を、ケアマネさんをはじめとする関係者と連携することの難しさを問題提起しています。

以下、資料を原文ママで引用させていただきます。

○ 医療技術の進歩等により、新たに在宅療養が可能となっている医療ニーズが高い利用者の中には、介護保険又は医療保険のいずれかで訪問看護を提供するか、検討できていない可能性がある。

○ 訪問看護は、利用者の疾患や状態により、サービス提供期間の途中で介護保険と医療保険が切り替わることや要介護被保険者等であっても医療保険の訪問看護の対象となる利用者がいる。このような時に、ケアプランに医療保険の訪問看護が位置づけられない場合は、訪問看護ステーションにとっては、利用者に提供されている医療・介護サービスの全体像を把握することが困難であり、介護支援専門員にとっても、利用者に提供されるサービスの 総量が把握しにくく、適切なケアマネジメントを進める上で支障となる可能性がある。

○ 介護保険と医療保険のそれぞれにおいて、同じ趣旨の評価であるにも関わらず、施設基準、算定の要件や評価の範囲などが異なる場合や、本来共通して評価すべきものがどちらかの保険でしか評価していない場合がある。

ということで、筆者が先ほど詳細を解説した通りの話になります。

精度の複雑さが各所での連携を難しくし、ひいてはご利用者様の不利益につながりかねないと指摘しているのです。

介護保険と医療保険の訪問看護に関する制度上の差異は、実際に現場でケアをする上では結構足かせになります。

何故なら、制度を正しく理解し運用していかないと、ケアプランや保険請求等の手続きに支障を来し、その調整に事務負担がかかってしまうからです。

事務負担がかかるだけでなく、正しい請求ができないために返戻になったりします。

返戻が立て続けに発生すれば、経営を大きく圧迫する自体になりかねません。

今回の介護報酬改定や診療報酬改定において、この介護保険と医療保険の適用関係についてどこまでメスを入れていくかはわかりません。

しかし先ほどから申し上げているように、このの「制度の複雑さ」は各方面で負担がかかっており、何らかの形で変えていただきたいと思います。

報酬体系の変更となるのか、運用上のルールが変更となるのかはわかりませんが、少なくとも意見交換会において有識者が問題にしていることは事実です。

私達訪問看護ステーションはもちろんですが、これは居宅介護支援事業所や訪問看護事業所など、医療的ケアを要するご利用者様に対してサービス提供をする事業者様は、大いにこのことに着目すべき内容ではないか、と筆者は考えております。

本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。

ユニケアでは、今後も皆様にとって有益な情報を提供してまいりたいと考えております。

もしユニケアの取り組みに少しでもご興味のある方がいらっしゃいましたら、お気軽にご連絡くださいませ。

それでは、次回の投稿をお楽しみに!!