こんにちは!東京都江戸川区のユニケア訪問看護リハビリステーションです。
本日は「福祉用具貸与のみのケアプラン問題」について取り上げさせていただきます。
これはケアマネさんにとって、ある意味非常に重要な問題であると考えますので、ぜひお付き合いいただけますと幸いです。
問題の背景
このコラムでも再三書かせていただいている通り、少子高齢化による社会保障費の逼迫は止まりません。
平成12年に介護保険制度が施行されてから、何度か介護報酬改定が行われましたが、全体の改定率はプラスもあればマイナスもありました。
しかしどちらにせよ、改定のポイントとして「サービスの必要性」「保険にて算定することが適正かとうか」等が常に問われていました。
この観点から、サービス種別ごとに細かく分析し、基本報酬を増やしたり減らしたり、新たな加算を新設したり統合したり、廃止したりしてきたわけです。
介護保険制度が施行されてもう20年以上経過しますが、制度設計をした当初は、まさかここまで介護給付費が膨れ上がるとはだれも思っていませんでした。
あまりに介護給付費が増えすぎたため、ここで交通整理をしていかないと、制度自体が維持継続できないところまで来てしまったのです。
今回の話は、すべてここから始まります。
居宅介護支援費のこれまでの現状
居宅介護支援に関する報酬見直しについては、これまでも財務省から再三にわたり指摘されてきました。
例えば、居宅介護支援費の自己負担について。
あらゆる介護サービス費の中で、利用者さんの自己負担が発生しないのは居宅介護支援費だけです。
皆様ご承知の通り、ケアマネさんが提供するサービスについては、全額介護保険財源で賄われています。
今回、この部分を掘り下げることは致しませんが、社会保障費の適正化を進めていく中で、居宅介護支援については常にやり玉にあげられてきました。
社会保障費を削れるところがあれば、削りたくて仕方がないのです。
財務省は、その一環として居宅介護支援費に自己負担導入を何とかして進めたいと、議論を重ねてきました。
しかし、業界団体等からの反対が根強く、改定のたびに俎上に上がりながら、先送りになってきたのです。
今回のテーマである、福祉用具貸与のみのケアプランに関しても同様です。
改定のたびに分科会で議論され、報酬がついに下げられるかと戦々恐々としながら、これまで手を付けられることなく据え置かれてきたわけです。
ケアマネさんがご利用者様に対して福祉用具を位置付ける場合は、以下のことに留意する必要があります。
・サービス担当者会議にて専門的見地を求めたうえで
・ケアプラン1表において、福祉用具貸与を位置付ける理由を明記する
・福祉用具専門相談員が、居宅サービス計画書に沿って作成する「福祉用具計画書」を受領し、共有する
です。
このことからも、福祉用具貸与・販売を位置付ける場合は、一定の制限が設けられていることがお分かりいただけると思います。
今回、これに更なる規制をかけようとしているということになりますね。
福祉用具の在り方についての検討会の発足
福祉用具貸与のみのケアプランについては、これまで俎上に上がりながらも現状のままとなっていましたが、次回の改定では本格的に手を付けてくる可能性が高くなりました。
今年2月17日に、福祉用具の在り方に関することを中心に議論する検討会が、初めて開催されたからです。それが「介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会」です。
この検討会の趣旨は、介護保険の給付対象である福祉用具の在り方を抜本的に見直そうということです。
特に福祉用具「貸与」を基本とする介護保険上の取扱いについて議論するほか、財務大臣の諮問機関が介護報酬の引き下げを求めている「福祉用具貸与のみのケアプラン」の扱いも議題となっています。
検討会の論点と問題点
第1回会合では、次の論点が示されました。
(1)福祉用具貸与と特定福祉用具販売の対象品目の整理
(2)福祉用具貸与を利用している人へのケアマネジメント
(3)福祉用具貸与等における販売制度導入を含めた適正化方策
(4)福祉用具貸与等における安全な利用の促進、サービスの質の向上
です。
どれも大変重要な論点ですが、今回は特に(2)と(3)をピックアップします。
過去、財務相の諮問機関である「財政制度等審議会(以下「財政審」)において、以下のことが指摘されてきました。
その骨子は、
・杖や歩行器、手すりなど要介護度に関係なく給付対象となっている。
・介護報酬算定のために、必要のない福祉用具貸与等をケアプランに位置付けているケアマネジャーが、一定数存在している。
というものです。
ケアマネジャーは、インフォーマルサービスの調整を行うだけでは、居宅介護支援費を受け取ることができないことから、やむを得ない部分もあるもあるという意見もありましたが、必要がないのに福祉用具貸与を位置付けるというのは、非常に乱暴な言い方にも聞こえます。
このことは、前述の通り以前から指摘されてきたことであり、2021年度介護報酬改定に向けた検討の場でも対応が話し合われました。
しかし、この議論を進めるには福祉用具の利用者の状態に応じた「適時・適切な利用」や「安全性の確保」など考慮すべき要素が多く、推進するのは時期尚早ということで、今後の継続検討事項として持ち越された背景があります。
検討会で挙がった具体的論点
検討会では、具体的論点として
・福祉用具貸与と特定福祉用具販売の整理について、介護保険法施行時と現在の状況などのちがいを踏まえ、どのように考えるべきか。また、福祉用具貸与を利用している者に対するケアマネジメントについて、どのように考えるべきか。
・福祉用具貸与等における販売制度導入を含めた適正化方策について、どのような取組が考えられるか。
・福祉用具貸与等における安全な利用の促進、サービスの質の向上について、どのように取り組んでいくか。特に、事故発生情報の活用や福祉用具貸与事業所等における連携、福祉用具専門相談員の質の向上、事業所におけるサービスの質の向上に向けた取り組みについて、どのような事が考えられるか
の3つを示しました。
これを受け、検討会ではエビデンス資料が提示されました。
・在宅系サービスのうち、福祉用具貸与の利用者は居宅介護支援に次いで多く、給付者の約6割以下が要介護2以下である
・手すり、スロープ、歩行器、歩行補助つえの4種目は、軽度者(要支援1〜要介護1)による利用が多い種目となっている。
ということです。
といった、軽度者の利用状況に着目したデータが含まれています。
この議論の本質は何なのか?
この論点には、重大な問題点があると思います。
それは、今回の検討が、介護や福祉・医療サービスの提供側の視点とは異なった立場から介護保険制度の改革について提言を続けており、本当に現場の意見に即した方針なのかと思われる点です。
確かに、社会保障費の抑制ということを優先に考えれば、
・貸与から販売(自己負担)に切り替える
・ケアマネジメントに対する評価を引き下げる
といった方法は、一見すると有効な手法であると思います。
社会保障費の適正化は、誰が何と言っても必要なことに違いありません。
しかし、実際にご利用者様が利用される介護サービスは、福祉用具に限りません。
複合的に考えなくてはなりません。
確かに、サービス単体で個別に考えることは大切ですが、介護保険サービス全体でかかる費用を考えると、福祉用具のみの利用者が多く存在しているということを一律に批判するのは、筆者は少々乱暴ではないかと言わざるを得ません。
福祉用具貸与しか使っていないということは、逆をいえば「福祉用具を使っているから、在宅生活が維持されている」という発想にはならないでしょうか?
福祉用具が適切に利用されていることにより、重度化を防ぎ、人的なサービスを使うことなく自立した生活を継続できている考えには及ばないでしょうか?
上記を裏付けるデータも、検討会の資料でも示されています。
財政的な部分だけに偏って議論されることで、結果としてご利用者様のADL維持が阻害されたり、在宅限界点の低下につながったりしてしまうとしたら、それは本末転倒と言わざるを得ません。
問題点を様々な立場から議論されることは、有意義で必要です。
しかし、介護の主役である「ご利用者様」「サービス提供者」を横に置いたままの議論だけは、してほしくないなというのが正直な気持ちです。
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