施設系サービスの現状と今後の課題

こんにちは!東京都江戸川区のユニケア訪問看護リハビリステーションです。

 

暦の上ではもう春を迎えようとしております。立春とはいえ、まだまだ寒い日が続きますね。

もうすぐ節分!ご利用者様の日々の生活を脅かす感染症や病気といった「鬼」を、私たち訪問看護師が追い払い、「福」を呼び起こすような存在でありたいと思います。

まだまだ落ち着かない日々が続きますが、皆様に「福」が訪れますことをスタッフ一同心よりお祈り申し上げます!

 

さて、今回は施設系サービスをテーマに取り上げたいと思います。

施設系の中でも、特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)、有料老人ホームに絞って、各サービスの現状と今後国として考えている諸々の対策について考えていきましょう。ぜひお付き合いいただけますと幸いです!

 

社会保障審議会介護保険部会で議論となったこと

介護保険施設や入居型サービスについては、報酬改定に向けてそれぞれの機能強化や分化をどう考えていくかに焦点を当てて議論しています。それぞれ特徴あるサービスではあるものの、制度上の問題点も多く抱えているのは事実です。

特養・老健の2点に絞り、それぞれを制度の特徴や現状、今後の対策について解説してまいります。

 

特別養護老人ホーム

問題① 特養の待機者の減少

特養の待機者問題は深刻であり、2013年には約52万人と過去最高になったのを契機に減少へと転じ、2022年の最新情報では「約27.5万人」と半分程度にまで低下しています。

一時は社会問題にまで発展した「特養の待機者増」という問題。

待機者が減っていること自体は、いろいろな施策が功を奏しているわけで、喜ばしいことではあります。

しかし、喜ばしいことばかりでもありません。今、なぜこれだけ特養の待機者が減っているのでしょうか。

 

・軽度者の入所制限と特例入所の現状

ご承知の通り、特養は原則として要介護3以上の「中重度者」に限られています。

特別な事情がある場合に限って、例外的に軽度者(要介護1~2)の方にも入所が認められる場合もあります。これを「特例入所」といいます。

 

特例入所をされている軽度者の方は、一定数存在します。経済的な問題やご家族の有無等、いろいろな事情もありますからやむを得ないと思われます。

 

反面、もともと重度の方で、特養への入所の必要性が高いと判断できる方が入所できず、待機しているという問題もあります。

 

・有料老人ホームやサ高住の整備(後述)

2013年に最大52万人いた特養待機者を何とかしなければと、都市部を中心に特養の整備を増やしました。

それと同時に、やはり都市部を中心に特養に代替する施設として「有料老人ホーム」「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」の整備も加速させました。

サ高住の管轄省庁である国土交通省が、高齢者専用賃貸住宅(高専賃)へ移行するにあたり「10年間で60万個整備する」とぶち上げました。その後、厚生労働省との共管となったわけですが、本来のサ高住の機能は形骸化し、実施的に「有料老人ホーム化」しているようにも思われます。

ただし、いずれにせよ特養待機者の受け皿的な存在になっていることは間違いないでしょう。

 

問題② 医療ニーズの高い方への対応と人員基準

特養には「医師」を配置する必要があります。いわゆる「配置医師」というものです。

老健のように常駐はしておらず、あくまで入所者様の健康状態を把握し、何かあった時に職員さんが医師に相談をし医学的管理上の指示を受けるという関係性です。

 

しかし実際は、あまり機能しているとは思いにくいのが正直なところです。

常時その入所者様の状態を診ているわけでもない医師が、夜間対応も難しく、緊急対応も困難です。

ドクターコールしても十分な援助が受けられない現状があります。訪問診療としての介入も基本的にはNGです。

 

この環境では、保険医療機関側にも特養と連携するメリットが少ないので、消極的にならざるを得ないとしたらそれは仕方がないのかな、と。

 

このように、特養は老健とは明らかに医療的な環境が異なります。

しかし、いかんせん重度者中心に受け入れている施設なわけですから、医療依存度の高い方が一定数存在します。

看護師も夜勤配置義務がないため、医療依存度の高い方は入所困難です。

しかし、経年変化によりPEG等の対応が必要となったからといって、それだけで退所していただくわけにもいきません。

ですので、継続的に入所を受け入れるわけですが、その数が増えてくると当然ながらスタッフさん(特に看護スタッフ)も負担が激増するわけです。

 

介護保険部会において、出席者からは下記のような意見も出ております。

 

医療ニーズへの適切な対応の在り方について、配置医師の実態等も踏まえつつ、引き続き、診療報酬や介護報酬上の取扱いも含めて、検討を進めることが適当。

特別養護老人ホームが在宅での生活が困難な中重度の要介護者を支える施設としての機能に重点化されている趣旨等を踏まえ、特例入所の運用状況や空床が生じている原因などについて早急に実態を把握の上、 改めて、特例入所の趣旨の明確化を図るなど、地域における実情を踏まえた適切な運用を図ることが適当である。

 

と。

 

ここ最近では、都市部こそまだ待機者が多いものの、地方を中心に入所者を奪い合っているという話もお聞きします。

特養もベッド稼働率を確保してはじめて収益が安定するわけですから、満床にならない期間が長期化することは問題です。

近年では、収益が悪化して経営を脅かしている社会福祉法人も増えています。入所待機者数が減ることは、それだけ特養に入りやすくなるということになりますが、社会福祉法人の経営面で考えると手放しで喜ぶわけにもいかないでしょう。

 

経営を安定化させるために、特例入所の在り方や医療ニーズの高い方への対応については国もはっきりした指針を示していただきたいものです。

 

介護老人保健施設

問題① 老健は「在宅復帰」が使命

老健の使命は、入所者様に対してリハビリ等を実施して、居宅にて生活できるように支援(在宅復帰)をすることです。

しかし近年、在宅復帰機能を国は厳格化してきました。在宅復帰率を高める施設に対しては、より高い報酬や加算を算定できるようにしています。

在宅復帰を最大限に高めた場合と全く取り組まない場合とでは、基本報酬に著しい差が生じる構造になっています。

ですので、施設も頑張って在宅復帰を促すわけです。

 

それ自体は大変素晴らしいですし、本来の老健の在り方そのものでしょう。

ただ、それで丸く収まるような簡単な話ではないと思われます。

 

その弊害として「稼働率の著しい低下による収益減の危険」が懸念されています。

筆者がお聞きするところによりますと、空床率が1割を優に超えている施設が結構あるようです。

ベッドが空いているということは、そのベッドが埋まるまでは1円も収益を上げることができないということです。

 

「在宅復帰」機能を厳格化したことにより、ベッド稼働率が低下している。

在宅復帰が大事であるが、単に在宅復帰率を高めることが目的になっていないか。

 

居所だけが変わるのであれば、本質的な問題点は解消されていないのではないか。

 

問題点②医療ニーズの高い方への対応

老健は常勤医師の配置が義務になっています。管理者(施設長)は医師である必要があります。

また、薬剤師の配置も必要です。医師は診察を行い必要なお薬を処方し、薬剤師が調剤するわけです。

 

医師が行うサービスや薬価相当のコストは、介護保険の基本報酬に含まれています。

現実として、薬の量が多い方や薬価の高い方は入所しにくい状況になっております。ですので、入所にあたって薬の持ち込みや特別個室への入所を条件にするケースもあるようです。

また、原則として老健入所中の「他科受診(他の医療機関にかかること)」はできないルールになっております。

理由は、老健には常勤医師がおり、医学的管理や薬価相当の対価が基本報酬に含まれているためです。介護保険の基本報酬に包括されているのに、他科受診を認めてしまうと保険の算定構造上問題があるからなのです。

もちろん、専門的な治療を要する場合等において、例外的に医療保険を使った受診が認められるケースはあります。

しかし、運用上は難しい問題があることは事実です。

 

現在老健では、肺炎・蜂窩織炎・尿路感染等の対応で「検査」「処方」「注射」等の医療行為を行った場合に「所定疾患施設療養費」が算定できます。また、入所者の病状が重篤になり、救命救急医療が必要となった入所者に対し応急的な治療管理として投薬、注射、検査、処置等が行われた場合には「緊急時施設療養費」も算定できます。

 

在宅復帰だけでなく、医療ニーズの高い方を受け入れることも求められている老健に対して、これらの算定を認めているわけですが、本当に大変です。

それだけでなく、看取りへの対応も求められます。

老健は「在宅復帰機能」を中心に、医療ニーズの高い方への対応や看取り対応も求められるという、非常に重要かつ高度な役割を担っているといってよいでしょう。これらの機能を動かしていくのは、本当に至難の業だと筆者は考えます。

 

介護保険部会では、老健の今後の在り方について

 

在宅復帰・在宅療養支援の機能、介護医療院の医療が必要な要介護者の長期療養・生活施設としての機能をそれぞれ更に推進していく観点から、必要な医療が引き続き提供されるよう取組を進めることが必要である。

 

という意見も出ております。

介護医療院の話もありますが、これらの医療を老健で行っていくためには、報酬構造の見直しが必要ではないかと思います。

 

 

今回は特養と老健に焦点をあて、現状と問題点、今後どう対策を講じるのがよいのかについて、筆者の考えを書かせていただきました。

今後、2024年の介護報酬改定に向けての議論が展開されます。筆者も今後の動向を窺いつつ、何か動きがあればこのコラムでも発信してまいりたいと思います。

 

今回もお読みいただき、本当にありがとうございます。

ユニケアの取り組みに少しでも関心をお持ちの方、是非一度お話できればと思いますので、お気軽にご連絡くださいませ!!

 

 

【参考URL】

社会保険審議会介護保険部会資料

特別養護老人ホームの待機者状況(厚生労働省老健局)

特別養護老人ホームの人員基準(厚生労働省老健局)

介護老人保健施設の基準(厚生労働省老健局)

老健入所者に医療保険が算定できる医療サービス