介護職員のさらなる処遇改善のため、新たなに創設される「補助金」と「新加算」

ユニケアでは訪問看護や介護業界のことを色々な方に発信していきたいと考えております。
第一弾として「介護職員のさらなる処遇改善」について現役のケアマネさんに執筆していただきました。

ぜひご覧いただけたら幸いです。

処遇改善加算

 

去る令和3年12月27日に、厚生労働省老健局から「「介護保険最新情報vol.1026」が発出されました。

 

内容は、「『コロナ克服・新時代開拓のための経済対策(令和3年11月19日閣議決定)に基づき』、介護職員を対象に、賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提として、収入を3%程度(月額9,000円)引き上げるための措置を、令和4年2月から前倒しで実施するために必要な経費を都道府県に交付する」というものです(介護保険最新情報Vol.1026資料より)。

 

本情報は、令和4年1月25日現在「検討中」となっておりますが、すでに閣議決定され、補正予算も成立しているため、実施は決定となります。

 

具体的な運用方法については、これから整備されます。
この記事発信後に、概要が明らかになる可能性もありますので、また発信したいと思いますが、概要は下記の通りとなります。

 

【制度の趣旨】

介護職員(その他の職員)について、収入を約3%程度引き上げる。

【時期】

令和4年2月から9月までの時限的な措置である(後述)

【交付率】

サービスごとに設定(訪問介護の場合2.1%、通所介護の場合1%)
各サービス事業所の総報酬額(基本単位・加算・介護職員(特定)処遇改善加算を含んだ報酬額)に、交付率を乗じて計算する。実際の交付は2022年6月から実施とする。

 

介護職員処遇改善支援補助金 交付率

処遇改善加算

 

 

【補助要件】

〇介護職員処遇改善加算Ⅰ~Ⅲを取得していること
※処遇改善加算を取得できないサービス(訪問看護、訪問リハビリ、福祉用具貸与・販売、居宅療養管理指導、居宅介護支援)は対象外とする。

 

〇原則、令和3年度中に賃上げを実施していること。そのため、年度内に就業規則や賃金規程等の改定を行う。ただし、改定には一定の時間がかかるため、令和4年2月~3月分についてのみ、一時金による賃上げ(支払い)も認める。

 

〇補助金の2/3以上をベースアップ等に充当する。
ベースアップ等とは、「基本給」または「毎月決まって支払われる手当」のいずれかとする。
令和4年2月と3月分を除き、いわゆる「一時金払い」は不可とする。

 

【対象職員】 
介護職員
ただし事業所の判断により、その他の職員への賃上げに充当する柔軟な運用も認める。

【申請方法】
〇当該補助金の取得には、介護職員(特定)処遇改善加算と同様、都道府県等に対して行う。

〇賃上げ開始月(令和4年2月か3月)に、今後示される様式に記載し、メール等で提出する。

 

〇「計画書」の作成・提出が必要
計画書は、事業所ごとに対象職員の改善額の総額を集計し、報告する。職員個人レベルでは報告は不要。

 

〇申請様式、運用方法等についてはこれから整備され、公表される見通し(令和4年1月25日現在)。

 

【報告方法】

実績報告書を都道府県に提出する。
計画書と同様、事業所全体の賃上げ総額を報告するものとし、職員個人レベルでの報告は不要とする。
要件を満たしていないことが発覚した場合、補助金は全額返還となる。

となります。

 

本補助金の新設により、令和4年度の処遇改善計画書の提出は、4月締め切りにずれ込む見通しとなります。

 

前述の通り、本補助金は令和4年2月から9月までの時限的な措置という建前ではあるものの、国は10月以降も継続する意向を示しています。

 

その一環として、介護職員等の賃上げを令和4年10月以降も恒久的に実施する観点として、新たな加算を新設する検討に入りました。
令和4年1月12日に開催された「第206回社会保障審議会介護給付費分科会」にて、その概要が明らかになっております。
まだ検討中の段階なのですが、新加算の加算率(案)まで示されており、かなり具体的なところまで踏み込んで審議されております。ですので、新加算の創設は「ほぼ決定」と言ってよいでしょう。

 

 

処遇改善加算

〈第206回社会保障審議会介護給付費分科会〉

 

 

具体的な運用は、「介護職員処遇改善支援補助金」とほぼ同じになると見込まれています。

加算率は、介護職員数に応じてサービスごとに設定された加算率を、各事業所の報酬(既存の処遇改善加算、特定処遇改善加算の分を除く)に乗じた額となる見込みです。文科会で示された加算率(案)は以下の通りで、実際の給付は今年10月サービス提供分からとなります。

 

介護職員処遇改善の新加算 加算率(案)

処遇改善加算

 

岸田文雄首相は、令和3年10月に内閣を発足した際、国民の生活を守り、国民の所得を増やすための「5つの政策」を掲げています。その一つに「看護師・介護士・保育士の賃金アップ」に関する施策が盛り込まれていて、今回はその具体的施策となります。

内閣発足時に、岸田首相が介護職等の賃金アップに目を向け、具体的政策を打ち出したことに対し、公益社団法人日本介護福祉士会(及川ゆり子会長)をはじめとする介護関連団体は、基本的に歓迎の目を向けております。介護職の賃上げは、業界における永年の願いであり、日本国内の基本政策の一つに位置付けられるほど、重要かつ喫緊の課題なのです。

反面、問題もあります。

国が打ち出す政策には、いつも賛否両論があります。「及び腰」と揶揄され、制度設計そのものに問題や欠陥があるという批判も、多く聞かれます。

今回、補助金の財源は全額「国費」で賄われ、新加算は介護報酬につき「公費」「保険料」「利用者負担」で賄われます。本補助金や新加算は、岸田内閣の肝いり策というわけですが、自治体の財政や家計にも一定の影響を及ぼす形となります。介護職の賃金を上げることが必要なのは理解できても、コロナ禍で生活に苦しむ国民も多い中、皆が諸手を挙げて賛成しているわけではないかもしれません。

それでも、岸田内閣は国の重要政策の一つとして「介護職(その他看護師・保育士等)の賃上げ」を打ち出したのです。

なぜなら、介護職が日本において絶対に欠かせない、重要な「エッシェンシャル・ワーカー」にほかならないからであります。

国家予算の多くが、新型コロナウイルス感染防止対策や、冷えに冷え込んだ日本経済を立て直す政策に投入される中で、今回介護職の賃上げ施策に踏み切ったわけです。

このことが何を意味するのか。介護事業を運営される法人は、真剣に考えなければなりません。

厚生労働省「令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果」によると、介護職員処遇改善加算を算定する事業所は全体の93.5%におよび、うち「加算Ⅰ」を算定する事業所は75.6%となっております。大多数の事業所が、何らかの加算区分を算定している計算になります。

一方で、新設後まだ日が浅い「介護職員特定処遇改善加算」については、全体の加算取得率は63.3%で、4割近い事業所が算定できていないというデータがあります。

ここで特筆すべきなのは、介護職員処遇改善加算を算定していない事業所が、全体で6.5%も存在しているという事実です。

介護報酬改定により、介護職員処遇改善加算ⅣとⅤは廃止になっておりますので、調査のタイミングはありますが、この6.5%という数字は事実上「加算未算定」ということとなります。

前述の通り、今回の補助金や新加算は、介護職員処遇改善加算を算定していない事業所には1円たりとも支給されません。今回の恩恵には預かれないという話になるのです。

今回の施策にかかわらず、介護職員処遇改善加算を算定しない事業所は問題外であり、「より上位の加算」を算定することが、今後ますます求められることは必須の情勢です。そうでないと、今後介護職員の確保はますます困難を極めることとなります。

 

また、今回の補助金受給においては、就業規則や賃金規程に明確に定めるとともに、全従業員に伝えることが求められております。

就業規則等を明示するのは事業者の義務であるとともに、労働者は勤め先の賃金体系を知る権利があります。

 

賃金体系をブラックボックス化することは、介護職の不信を招き、離職にもつながりかねません。見える化を図り、健全でクリーンな運営が重要です。

 

介護職員(特定)処遇改善加算もそうですが、算定により得られた報酬を、介護職等にどのように配分するかについて、頭を悩ます事業者も多いことでしょう。

 

職員全員のコンセンサスを得ることは、まず不可能です

しかし今回の補助金、10月から導入予定の新加算を含め、その配分方法及び給与改善額を全職員に示し、その決定過程や理由について丁寧に説明していかなくてはなりません。たとえ、今回改善の対象とならない職員がいたとしても、です。

 

今回の補助金の具体的なスタートが目前に控えていても、現段階では様式も定まっておらず、まさに暗中模索の状況です。

しかし、介護事業者は今からでも、賃金体系に関する再構築に着手することが必要です。

 

社会保障費の適正化が叫ばれて久しい中、介護事業所にはこれまで以上に健全な運営が求められます。エッシェンシャル・ワーカーである介護職・看護職等の未来を舵取りするのは、ほかならぬ「介護事業所」なのですから。

 

(参考文献)

・厚生労働省老健局「介護保険最新情報Vol.1026」

・第206回社会保障審議会 介護給付費分科会WEB会議資料

・公益社団法人 日本介護福祉士会 及川ゆり子会長の声明文

・厚生労働省「令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果」