ユニケア訪問看護が今後注目する「混合介護」

こんにちは!東京都江戸川区のユニケア訪問看護リハビリステーションです。

 

日々、訪問看護師としてご利用者様のご自宅に訪問させていただくと、介護保険や医療保険のルールに基づいてサービスを提供することの重要性を痛感いたします。

 

介護保険も医療保険も公的な保険であり、貴重な税金と保険料によって制度設計され運用されているわけですから、社会保障費の適正化の観点で考えれば、ルールに従ってサービスを提供するのは至極当然の話です。

 

どんなにご利用者様が望まれても、介護保険や医療保険のルールに沿わないことについてはお断りせざるを得ません。

 

しかし、時に保険算定のルールにがんじがらめになり、正直使い勝手の悪さを思い知ることもあります。

 

ルールを逸脱したサービスの提供はできないのです。

たとえ、その方にとってよいと思えることであっても・・・

 

近年、保険サービスと保険外サービスを一体的に組み合わせる「混合介護」というものがクローズアップされています。

公的サービスの使いにくさを解消、ご利用者様の便益を向上させるきっかけになるかもしれません。

 

今回はこの「混合介護」というテーマを取り上げたいと思います。どうぞお付き合いくださいませ。

 

混合介護とは?

先ほど少し触れましたが、混合介護とは介護保険の対象に含まれるサービスと、対象から外れるサービスを組み合わせて、同時一体的に提供することをいいます。

 

介護保険等では算定できないサービスを提供する場合は、いわゆる「保険外サービス」「自費サービス」として扱い、多くの在宅系サービスで導入されております。

 

役割としては大きく二つあります。

 

一つは、介護保険の区分支給限度基準額を超過してしまう分を吸収する役割、もう一つは、保険適用できないサービスについて賄う役割です。

 

このサービスを位置づける場合、事業者とご利用者様が双方で契約を締結し、互いにサービスを提供・利用することになるのですが、特に後者については「保険サービス」と「保険外サービス」とが時間で切り分けられます。

この「時間で切り分けられる」というのがポイントです。

 

逆に「時間で切り分けられていない状態」とは、どういう意味なのでしょうか?

例えば介護保険の訪問介護サービスを受けられているご利用者様について、朝10時から11時の1時間枠で、介護保険の訪問介護を行いながら、一方でご家族の部屋の掃除や、庭の草むしりといった保険算定できないサービスを「一体的」に組み合わせて提供している状態のことを指します。

 

上記のように、時間枠の中で保険サービスと保険外サービスを組み合わせ、一つの固まりとして行われる介護のことを「混合介護」というのです。

 

しかし、現行ルールでは混合介護は認められていません。

なぜなら、このように一体的に行われてしまうと、中身が非常に見えにくくなり、かつ高額になりかねないからです。

ですので、利用者保護や公平性の確保等の観点から、現状では混合介護はできないということになっているのです。

 

混合介護の必要性

上述の通り、混合介護は制度上認められておらず、その必要性について長きにわたり行われてきませんでした。

それでも混合介護には、利用者の便利や安心に役立ち、介護事業者にとっても経営の効率化につながる可能性を秘めております。

 

冒頭でも申し上げた通り、日々訪問看護サービスを提供している私達でも、保険サービスだけではご利用者様のニーズを解決することが難しいと思っている位です。

 

この混合介護という考え方を初めて議論し、形にしてきた自治体として、東京都の豊島区が有名です。

豊島区では「選択的介護」と呼んでいるそうですが、全国に先駆けて自治体内で議論を重ね、地域のケアマネさんとも意見交換をし、モデル事業として実施し制度化されております。

 

混合介護のメリット

混合介護は、利用者と事業者の双方にメリットをもたらします。

まずご利用者様側の観点では、保険制度の枠組みにとらわれずに必要なサービスを受けることができ、生活の利便性がアップします。

訪問介護においても、ヘルパーさんに依頼できることが増えれば、ご家族の負担もグンと軽減されるでしょう。

さらに介護事業者が独自のサービスを工夫できるようになれば、よい意味での競争が促進されます。

現在は慢性的な人材不足もあり、すぐに全国的に浸透するとは思いにくいですいが、競争原理が働くというのはよいと思います。

「競争が生まれる=業界全体のサービスの質が向上する」ことを意味するからです。

 

いっぽう事業者側にとっては、これまでのサービスに上乗せする形で効率よくサービスを提供できるため、収益のアップが見込めます。

介護業界で働く皆様にとっても、収益が上がったり競争が起きたりすることで、優秀な人材がしっかり評価される可能性が広がるため、給料などの待遇面や働く環境の改善につながります。

制度設計が充実し、しっかり運用が出来れば、介護職員の給与水準は全産業平均により近づいていく可能性もあります。

冗談抜きで「カリスマ介護士」が登場するかもしれません。

 

混合介護のデメリット

混合介護にはデメリットもあります。

利用者様の観点で一番懸念されるデメリットは、やはり「お金がかかる」ことです。

 

混合介護は、認められる範囲が広範囲に及ぶほど、利用者様の費用負担が増えやすくなります。

介護保険サービスは「応益負担」が原則ですが、所得の高い方については自己負担割合が上がるので「応益負担」の側面もあります。

所得の高い方しか、混合介護のサービスのベネフィットを享受できないということになれば、介護保険制度の公平性が損なわれることにもなりかねません。

また、サービスが多様化するため、たくさんのサービスの中から自分に合ったものを選ぶのが難しくなります。

事業者側のデメリットとしては、業務の線引きや管理に手間がかかることや、利用者に個別に対応することが求められるため、現場の負担が増えるのではないかということが懸念されています。

ケアマネさんの理解は不可欠ですし、ご利用者様と事業者様との調整をし、適切に説明する等の負担も考えなくてはなりません。

 

混合介護のルール

混合介護が一気に普及しない大きな理由は、上記の「デメリット」が現実化しないようバランスをとって進めていくことがとても難しいからであります。

それでも、混合介護の重要性は国も理解しております。

先ほども触れましたが、2018年に厚生労働省から通知されたのが「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについて」です。

これである程度明確に、混合介護のルールが示されることになったのです。

通知のポイントとしては、「介護保険サービスと保険外サービスの同時一体的な提供は不可」ことが、改めて明確になりました。

例えば、利用者本人のための食事を用意する際、同時に同居家族のための食事も作っておく、というようなサービスはできないことを表します。

ひとつの鍋で料理を作ったら、どこまでが介護保険の対象内で、どこからが対象外かを線引きするのが難しいためです。

ただし、介護保険対象サービスの前後や合間に、同居家族の部屋の掃除をしたり、同居家族のための買い物をしたりすることはOKとされております。

また、「特定の介護職員への指名料、繁忙期・繁忙時間帯の時間指定料など、上乗せ料金の徴収は不可」ともしています。

これは介護保険制度の公平性を保つための規制と考えられます。

通知ではそのほかにも、混合介護を提供する際に事業者が対応すべき事項が挙げられています。

主なものをいくつかご紹介いたしますと・・・

★介護保険対象のサービスと対象外のサービスを明確に区別すること

★介護保険サービスとは別に、基本的な指針と利用料を定めること

★混合介護に関する事項について、契約締結前に文書で利用者に同意を得ること

★介護保険適用のサービスから保険外サービスに移行するタイミングをていねいに説明するなど、別サービスであることを利用者が認識できるようにすること

★介護保険対象のサービスと、保険外サービスの会計を明確に区別すること

★認知機能が低下している利用者に、高額な商品等の販売は行わないこと

等が掲げられております。

規制が緩和された部分も多いですが、現時点で「不可」とされていることも多く、まだまだ難しいところもあります。

ただし、現時点では「不可」としたものの、厚生労働省では引き続き検討を続けていくとのこと。

今後これらの規制が緩和される可能性も考えられ、そうなれば業務の効率化や価格設定の自由化につながっていくかもしれません。

介護保険制度は、何より公平性と適正化が求められます。

いっぽうで、サービスの受け手であるご利用者様やご家族の利便性、そして担い手である事業者の収益性も無視することはできません。

保険制度を恒久的に持続させていくためには、混合介護を制度化すべく真剣に議論をしていく必要があると私達は考えます。

もちろん、高齢になるにつれて認知機能が衰える方も増えていくことを鑑み、利用するサービスはなるべくシンプルでわかりやすいことも望まれます。

 

訪問看護との関連性と今後

医療に関しては「混合医療」が禁止されております。

医療保険が適用されない医療行為を、医療保険が適用される医療行為と一体的に受けたい場合、本来であれば医療保険が適用される医療行為であっても保険適用外となり、患者の全額負担となってしまいます。

介護保険と医療保険を併用する訪問看護では、クリアしなければならない問題はあります。

 

反面、訪問看護にも自費サービスはあります。

 

主治医の指示のもと、介護保険や医療保険では賄えない部分を「自費サービス」が吸収するというスタイルで、最近では提供サービス事業所も増えてきています。

混合介護はまだまだ多くの課題を抱えているのは事実です。

それでも、利用者と事業者の双方にもたらされるメリットは多いのも事実であります。

課題は多くても、ひとつずつ乗り越えていくことにより、介護業界に一つのイノベーションが確立されることを期待したいです。

私達はどうしても「介護保険」「医療保険」という仕組みにとらわれ過ぎてしまう傾向があります。

もっと視野を広くしていくことで、大局的に物事を考えることが出来、ご利用者様のニーズをキャッチアップできるようになるのではないかと思います。

 

日々の訪問看護サービスにおいても、このことを常に頭の片隅に置き、ご利用者様に接していきたいと考えます。

 

 

ユニケア訪問看護リハビリステーションでは、今後も皆様にとりまして少しでも有益な情報をお届けすべく、今後も配信を続けてまいります。

 

今回もお読みいただき、誠にありがとうございました。

 

【参考URL】

豊島区ホームぺージ

介護保険最新情報Vol.678(独立行政法人福祉医療機構)

高齢者住宅新聞オンライン

介護ワーカー(図のみ)