看護職員の賃上げ問題

こんにちは!東京都江戸川区のユニケア訪問看護リハビリステーションです。

新年度となり、皆様の生活にもいろいろ変化があるかと思いますが、いかがお過ごしでしょうか?

周囲も、新しく小学生になった子どもたちが、ピカピカのランドセルを背負って登校する姿も見られ、とても微笑ましく思います。

私達も初心を忘れず、今日も元気に援助をさせていただいております!!

 

本日は「看護職員の賃上げ問題」について取り上げたいと思います。どうぞお付き合いいただけますと幸いです。

岸田内閣の方針

昨年10月に発足した岸田文雄政権では、介護や医療業界、保育業界等に携わる方々の賃上げについて掲げており、その動向が話題になっています。

介護職員に対する手当てについては、「介護職員処遇改善支援補助金」の創設や、10月に臨時の介護報酬改定の実施が決まりました。

本件につきましては、このコラムでも取り上げさせていただいたところです(コラム)。

しかし、介護職員処遇改善支援補助金の支給対象外となっている訪問看護事業や居宅介護支援事業、あるいは福祉用具貸与事業所等の従事者の処遇は、いったいどうなるのでしょうか。

今回は「看護師の処遇」に絞って、これまでの議論や決定事項から読み解いてみたいと思います。

 

訪問看護は「介護職員処遇改善支援補助金」「新加算」の対象外に?

 

以前に掲載したコラムでもお示しした通り、2021年11月に政府がまとめた経済政策を受け、2021年度補正予算が昨年末に成立したわけですが、予算の一部として介護職員や保育士、看護師らの月収を来年2月から9月まで引き上げるための経費が盛り込まれました。

 

これにより、介護職員(または対象施設・事業所が指定する職員)の賃上げを実施するための「介護職員処遇改善支援補助金」が創設されました。

このコラムが掲載される頃には、補助金に関する計画書の提出は締め切られていることと思いますが、大変多くの事業所が申請される見込みです。

 

しかし訪問看護事業所は、この補助金の支給対象から外れています。

居宅介護支援事業所や福祉用具貸与事業所も対象外となっており、業界団体からは改善の声が寄せられていることは、ご存知の方も多いことでしょう。

 

介護職員処遇改善支援補助金の創設にあたり、厚生労働省が「社会保障審議会 介護給付費分科会」の委員に書面で説明したのですが、日本看護協会の常任理事である田母神裕美委員は「介護保険施設や看護小規模多機能型居宅介護等において働く看護職員に対しても、処遇改善について対象となるよう検討してほしい」強く求めています(第205回社会保障審議会介護給付費分科会・21年12月24日)。

特に、訪問看護については「新たな方策の検討が必要」であると強調しています。

今回の補助金は、本年9月までの臨時的な取り扱いになりますが、10月以降「介護職員等ベースアップ等支援加算」が創設されることとなります。

この加算は、本補助金をほぼ踏襲する形で引き継がれ、これに伴い今年10月には臨時の介護報酬改定が行われる形になることについても、このコラムでお示ししている通りです。

今回の補助金では、介護職員が配置されない事業に関しては対象外になりましたが、10月の臨時報酬改定ではどうなっていくのか・・・

 

分科会では、当該補助金の創設にあたり、以下の見解を示しました。

「協議を開始した22年1月12日時点で、介護職員処遇改善支援補助金の要件・仕組み等を基本的に引き継ぐ形で加算を創設することを想定している」と。

この方針に変更がなければ、訪問看護事業所や居宅介護支援事業等では10月に新設される加算においても対象外となる公算が強いということになります。

 

 

看護師が働くすべての事業体に対し、処遇改善はなされるのか?

国は看護師の賃上げを明言してくれていたはずなのですが・・・

ここで、看護師の賃上げを巡るこれまでの流れについて、振り返ってみたいと思います。

 

岸田首相は就任直後に、看護、介護、保育などの現場で働いている方々の収入増を目指すため、公的価格の在り方の抜本的見直しを検討する「公的価格評価検討委員会」創設を表明されました。

 

その直後にまとまった先述の経済対策には、「まず対応すべきは『コロナ対応に全力を注がれている医療機関』である」と掲げております。

これについては、誰も異論はないと思います。

さらに読み込んでみますと「まずは、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に、賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提として、段階的に収入を3%程度引き上げていくこととし、収入を1%程度(月額 4,000 円)引き上げるための措置を、来年2月から前倒しで実施した上で、来年10月以降の更なる対応について、令和4年度予算編成過程において検討し、必要な措置を講ずる」と記載されております。

 

そして、この4月はじまった令和4年度診療報酬改定において、看護の処遇改善のための特例的な対応として「+0.20%」となり、全体としてプラス改定となりました。

ここで勤務する看護職員ら(医療機関の判断によって理学療法士や作業療法士、看護補助者の処遇改善に充てることも可能)には、2月から9月までの間、医療機関に支給される予定の補助金によって月額4,000円相当の引き上げが行われることが決定しております。

 

ここからも、訪問看護事業は対象から外されてしまっております。

 

また、公的価格評価検討委員会が年末にまとめた中間整理には、その方向性について

▽まずは、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員について、収入を3%程度引き上げていくべきである。
▽あわせて、管理的立場にある看護師の賃金が相対的に低いこと、民間の医療機関であっても国家公務員の医療職の俸給表を参考としている場合が多いことも指摘されており、今回の措置(2月から9月までの一部看護職員らの賃金引き上げ)の結果も踏まえつつ、すべての職場における看護師のキャリアアップに伴う処遇改善のあり方について検討すべきである。

と明記されています。

 

訪問看護に対する賃上げについて「来年10月以降の更なる対応」の検討事項として扱われることを、私達は今後期待していきたいと思います。

 

日本看護協会の主張

(公社)日本看護協会では、過去に「公的価格評価検討委員会」において「看護職員の収入増の必要性に関する意見書」を提出しております。

 

意見書には、

「看護業界のボリュームゾーンである40歳代前半において、全産業平均の賃金水準を下回っており、国家資格としての職責や職務に見合っていない」

また、

「訪問看護ステーションの看護職員の賃上げは訪問看護基本療養費への加算で、介護報酬・障害福祉サービス等報酬については看護職員の配置が要件とされているサービスに対応する処遇改善分の加算を設け、手当てする必要がある」

 

という内容が記載されておりました。

その後に中間整理で示された方向性に対しては、日本看護協会としても歓迎する姿勢を示しているようです。

協会はかなり頑張ってくれていて、うれしいです(涙)。

先にも触れました通り、今般の診療報酬改定については、本体の改定率がプラス 0.43%、このうち、「看護の処遇改善のための特例的な対応」に0.20%を充てることが決まったわけですが、私達訪問看護事業所において看護職員の処遇をどう改善していくのかについては、課題が残されたままです。

 

何度も触れております通り、岸田政権での方針や診療報酬改定において「看護師の処遇改善を」と合言葉の一つに掲げ、実行されていることは事実であり、業界に身を置く私達にとっては大変ありがたく思います。

当然ながらそこは重々理解しているわけですが「処遇改善を図るのであれば、医療職種や医療スタッフ、従事する全ての医療関係職種に対して幅広く引き上げることが必要」等といった意見が挙がっているのも事実であり、今後の動向を窺いたいところであります。

 

私達がすべきこと

介護事業における人手不足は、本当に深刻です。「深刻」という言葉では表現できない位、深刻です。

訪問看護ステーションでも同様で、訪問看護に理解と情熱のある看護師を採用するのは本当に至難の業であります。

今回は、訪問看護における「賃上げ」問題を取り上げましたが、ここで私達が忘れてはならないことがあります。

それは「訪問看護サービスの価値を高めるのは、最終的には自分たちの力にかかっている」といことです。

介護も医療も公定価格が決められていて、事業収入の大半を占めるわけですから、そこを手厚くしてほしいという気持ちは正直あります。

しかし、国には必要なことをしっかり提言するとして、私達は「患者様・ご利用者様によいサービスを提供すること」「地域の事業所様と手を携えていくこと」を実現させ、同時に「事業所で働くスタッフがやりがいを持ち、長く安心して働けるような環境を作っていく」という本分を忘れてはならないと、強く思うのであります。

 

 

本日もお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

ユニケア訪問看護リハビリステーションでは、今後も皆様にとって少しでもお役に立つ情報を発信していきたいと考えております。引き続きご愛顧を賜りますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

【参考URL】

第205回社会保障審議会介護給付費分科会(委員からのご意見)

第206回社会保障審議会介護給付費分科会資料

首相官邸HP

公定価格評価検討委員会資料

看護職員の収入増の必要性に関する意見書(公社)日本看護協会

令和4年度診療報酬改定(厚生労働省)