決して見過ごせない「ヤングケアラー」

こんにちは!東京都江戸川区のユニケア訪問看護リハビリステーションです。

年度が変わってからもう1か月近くが経とうとしており、月日の経過の早さには驚くばかりです。

もうすぐゴールデンウィークも始まりますね。皆様、どこかへお出かけのご予定はございますか?

介護や医療のお仕事をされていると、なかなかゆっくりGWを楽しむことは難しいかもしれませんが、気候としては大変過ごしやすい時期ですので、お時間を見つけて楽しんでいただければと思います。

筆者の近所には、4月末に大型ショッピングモールがオープンする予定ですので、GWはそこに出かけようと考えております(笑)。

 

ところで皆様「ヤングケアラー」という言葉をお聞きになったことはありませんか?

最近非常に問題になっている話なのですが、今回はこの件につきまして取り上げさせていただければと思います。皆様どうぞお付き合いくださいませ。

 

ヤングケアラーの定義

 

ここでは、ヤングケアラーという言葉をよくご存知ない方のために、以下にその定義について記載したいと思います。

「一般社団法人日本ケアラー連盟」という団体がありまして、そこからの引用になりますことをお許しくださいませ。

 

ヤングケアラー(子どもケアラー)
家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18歳未満の子どものこと。ケアが必要な人は、主に、障がいや病気のある親や高齢の祖父母であるが、きょうだいや他の親族の場合もある。

 

◎若者ケアラー
18歳~おおむね30歳代までのケアラーを想定している。ケアの内容は子どもケアラーと同様ですが、ケア責任がより重くなることもある。若者ケアラーには、子どもケアラーがケアを継続している場合と、18歳を越えてからケアがはじまる場合とがある。

 

と定義されております。

 

現在、中学生の17人に1人が「ヤングケアラー」であるといわれているそうです。

当法人でも、数は多くないながらも、年齢の若い方のケアをさせていただくことはありますが、医療ケア児(者)の方を自宅で介助することの大変さは、想像を絶する程です。

その患者さんにご兄弟がいらっしゃれば、その方も少なからず負担が強いられることになります。

 

当法人の代表である青木も、まさにケアラーとしての経験を持つ一人であり、当法人HPでもご挨拶させていただいている通りです(一般社団法人ユニバーサルケア 代表挨拶)。

ですので、とても他人事とは思えないのです。

 

では、実際にヤングケアラーといわれる方々は、普段どのようなことをされているのでしょうか?

上述の「一般社団法人日本ケアラー連盟連盟」の公式サイトには、

 

◎子どもたち・若者たちが担っていること
・家事:料理や洗濯、掃除など
・一般的なケア:着替えや移動の介助など

・情緒面のサポート:見守り、声かけ、励ましなど
・身辺ケア:入浴やトイレの介助

・医療的なケア:投薬管理など
・きょうだいの世話:世話、見守り
・その他:金銭の管理、通院の付添い、家計を支えるための労働、家族のための通訳など

 

と記されております。

ヤングケアラーの現状

ヤングケアラーという言葉は、ここ数年位の間で聴かれるようになりました。

厚生労働省でもここ数年、ヤングケアラーに関する調査を実施し、啓発・施策を講じようとしております。

その中で気になったデータをご紹介したいと思います。

 

まず「ヤングケアラーに関する意識」について。

「要保護児童対策地域協議会におけるヤングケアラーへの対応に関するアンケート調査」のよりますと、ヤングケアラーという概念の認識について、下記のデータが掲載されておりました。

こちらを拝見しますと、令和元年と令和2年とで、ヤングケアラーという概念の認識についてはかなり増えてきていることがわかります。

最近では、ヤングケアラーに関する啓発を目的としたTVCM(詳細は公益社団法人ACジャパンご参照のこと)

が見られるようになりましたが、そういう啓発も奏功しているのでしょう。

ヤングケアラーに関する世間の意識は、少しずつ高まっているように思えます。

 

ところが「ヤングケアラーが疑われる子どもの実態をどの程度把握しているか」という項目について見てみますと・・・

 

という結果となり、筆者は大変驚かされました。

ヤングケアラーと思われる子どもがいることは認識しているのに、その実態が把握しきれていないというのです。

ヤングケアラーの存在を「把握している」場合でも、実際に適切な支援がなされているとは限らないということなのですね。

ですので、その実態が把握されていないということは、支援はほぼ行き届いていないと言えると思ったからです。

ここに、ヤングケアラーの厳しい現状が見て取れるわけです。

 

ヤングケアラーには非常に根深い問題がたくさんあり、絞り込むことは難しいのですが、特に重要な問題が2つあると筆者は考えます。

一つは「不安」。そしてもう一つは「ケアラーの将来」です。

 

ヤングケアラーの「不安」

子どもには、その時にしかできないことがたくさんあります。

例えば、お友達と楽しく遊ぶことや、勉強をすること、年齢を重ねていけばおしゃれもしたいですし、恋愛もするでしょう。

それなのに、幼いうちから家族の介護をすることにより、そこに時間が取られてしまい、若いうちにしかできない貴重な経験が十分できない可能性が生じるのです。

先ほど、日本の中学生の17人に1人がヤングケアラーであると申し上げましたが、全体的にはまだ少数派とも言えるかもしれません。

ですので、家族のケアに悩んでいても、なかなか周囲の共感が得られにくい。

相談できる相手も少ない(いない)ので、ケアラーの方々の不安やストレスは増すばかりです。

 

学校側がもっとケアラーの実態を把握すべきではないか、という意見もあるでしょう。

しかし、筆者も小学生の子どもを持つ親でありますが、学校の先生は本当に激務で、普段の授業やクラス運営だけでも大変なのに、ケアラー把握までを個別に行うのは困難です。

「それも教員の仕事だ」といえばその通りですが、その言葉で片づけられる程簡単にはいきません。

「親を敬うこと」「家族が困っているときに助けること」といった考え方は、子どものうちに教育すべきことであると思います。

しかしそれでも、その子たちの思いを犠牲にしてまで家族ケアをし続け、潰されてしまう姿を見るのはあまりに辛すぎます。

 

ヤングケアラーの「将来」~夢をあきらめてほしくない~

ヤングケアラーの方にとって。大変で苦しいのに相談する術がないというのは辛いです。

しかしもっとつらいのは、家族のケアに奔走しすぎてしまい、ご自身の将来ビジョンが描けないということではないでしょうか。

 

ヤングケアラーについて研究され、著書もたくさん出されている澁谷智子先生(成蹊大学文学部現代社会学科教授)は、ヤングケアラーが直面する問題として「学業への影響」「進路(就職)への影響」を挙げられています。

 

家族ケアに時間を取られてしまい、勉強する時間が不十分になってしまう。

勉強が十分でなければ、どうしても進学への影響が避けられなくなる。

そうなると、自分にできると思う仕事の範囲を狭めて考えてしまう。自分のやってきたことをアピールできなくなってしまう。

 

澁谷先生はこのように指摘されております。

 

ケアラーの中には、将来の夢を明確に描いている方もいらっしゃると思います。

しかし、家族ケアの現実に直面し、将来の夢をあきらめざるを得ないとというケースは十分考えられますし、実際にも起こっています。

 

ケアラーご自身の夢をあきらめてほしくない。

将来に対して悲観的になっていただきたくない。

筆者は強く思います。

 

 

私達に何ができるか?

では、私達できることはいったい何なのでしょうか?

 

まずは、ヤングケアラーと言われ方々がいることに、思いを馳せること。

場合によっては「他人事」であっても、そういう方々が存在しているということを認識する。そこがはじめの一歩であると思うのです。

「意識が変われば行動が変わる・・・」という有名な言葉がありますように、多くの方々が意識することにより、大きなことが成し得ると考えます。

 

困っている人がいれば、誰かにそのことを伝えるというのも、大変重要なことです。

そういう小さな取組みをすることにより、前述の「ヤングケアラーはいいるが、実態が把握されていない」というようなことは、少しは減っていくのではないでしょうか?

 

また、福祉制度の仕組み等について、もっともっと若い方々に学んでいただく必要もあるのではないでしょうか。

 

筆者は前々から、学習指導要領の中に介護福祉に関する科目を設けて、小中学校や高等学校において必修にした方がよいのではないか、と考えておりました。

 

これは推測ではありますが、ヤングケアラーであることを認識しているのに実態把握ができない(あるいは認識もできていない)のは、相談する術がない、あるいは情報がないといったことが大きな理由なのではないでしょうか?

 

私達のような福祉職・医療職ですら簡単ではないのに、一般の方々にとって福祉制度等に関する情報を集めて理解するのは、本当に至難の業です。

 

具合が悪くなれば医療機関にかかりますし、日常生活に支障が生じた場合は介護を受けられる制度があります。やむを得ない理由で生活が困窮した方には、生活保護を受けられる制度もあります。事故等で障がいを抱えてしまう可能性もありますが、そういう方には障がいサービスや公費による助成も受けられます。

 

このような制度があることを知っている方、どれ位いらっしゃるでしょうか?

 

人間なら誰しも医療・介護等が必要となります。

ですので公的制度として位置付けられているわけです。

お子様が成長され、収入を得られるようになれば税金を払い、社会保険料を払うようになります。介護保険料も、40歳になった段階で納付が義務になります。

 

生きていれば必要な知識や情報を、子どものうちから学ぶことは非常に有用であると思うのです。

そうすれば、少しは「ヤングケアラー」を救えるきっかけになるのではないでしょうか。

 

普段の生活で、このことを常に意識している方は少ないかもしれません。

しかし、これは決して他人事ではないということを少しは認識し、自分事として考えることは重要であると思います。

 

 

例えば、貧困に苦しみ自殺をした方がいたとして、「制度について少しでも情報があれば、救われたかもしれない」という事例は少なくありません。

 

引きこもりの高齢者や、家族のケアをしている子どもたちや若い方々を支援する「地域包括支援センター」等の支援機関がありますが、皆さん大変忙しく疲弊しています。

 

ヤングケアラーが救われないという状況は、まさに社会的な大損失とも言えます。

社会的大損失を回避するには、上記のような支援機関に対してもっと予算をつけ、

 

「子どもが子どもでいられる街に」という言葉、非常に身につまされます。

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

当法人では、今後も皆様にとって少しでもお役に立てる情報を発信してまいります。

今後ともお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

 

 

【参考URL】

厚生労働省HP「ヤングケアラー」

「一般社団法人日本ケアラー連盟」

ヤングケアラーに関する実態調査研究報告書(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

ヤングケアラーに関する相談窓口

公益社団法人ACジャパン