介護現場のリスクマネジメント~痛ましい事故を教訓に~

こんにちは!東京都江戸川区のユニケア訪問看護リハビリステーションです。

 

当法人は江戸川区を中心に、訪問看護サービスを提供する事業を主体として運営しております。

ご利用者様やご家族に少しでも喜んでいただけるよう、私たち訪問看護師やセラピストたちは毎日元気にご自宅等を訪問させていただいております。

 

また最近では「障がい者グループホーム」という新しい事業もスタートしました。

 

本コラムでは、訪問看護師としての取り組みや法人の事業について是非知っていただくべく、介護業界の動向や制度に関することもテーマに織り交ぜながらご紹介しております。

毎回多くの方々にお読みいただき、本当に感謝しております。

 

本日のテーマ

先日、静岡の認定こども園の送迎中、園児の方がバスの中で置き去りになり、誰も気づかれないまま熱射病でお亡くなりになるという、非常に痛ましく悲しい事故が発生しました。

 

こんな事故がなければ、その園児の方やご家族には、今後楽しい生活や輝かしい未来が待っていたはず。

本当に無念であるに違いありません。

今回この報道を目の当たりにし、バスの中で苦しい思いをしながら命を落とされた園児の方、そしてそのご家族の方等々のご心情を思うと、筆者は涙を堪えることはできません。

 

筆者もまさに、子育て真っ最中の身であります。

もし、愛する我が子がそのような事態に遭遇してしまったら・・・ 

そう思っただけで、居ても立っても居られなくなってしまいます。

 

「園児の方やご家族があまりにかわいそう」「このような悲しい事故は、今後絶対にあってはならない」と筆者は強く思いますし、これを否定するする人など皆無でしょう。

 

反面、ここで少し冷静になり、私たちが身を置く介護現場を軸に考えてみますと、このような悲しい事故を引き起こすリスクが多いことに改めて気づかされます。

 

前置きが長くなってしまいましたが、今回は「介護現場のリスクマネジメント」をテーマに掲げ、先程ご紹介した本当に痛ましく悲しい事故について、私たちはどう教訓にし、考えていくのかについて取り上げていきたいと思います。

 

残念ながら事故リスクは決して「ゼロ」にはならない?

まず、私たちが認識しなければならないことがあります。

それは、どんなに事故防止に最大限努力を重ねても、完璧に事故を食い止めることはできないということです。

事故を未然に食い止め、万一事故に見舞われた場合に再発を防ぐための第一歩として、私たちは強くこのことを心得ていなければならないと思うのです。

 

ただし、事故を完璧にゼロにすることができないというのは、モラルハザードを意味するのではありません。

確率論として、たとえ事故リスクを完全に排除できないとしても、私たちは事故をゼロにするために最大限の努力を重ねていかなくてはならないのです。

 

人間ですからミスはつきものです。

しかし、それに甘んじてはならない。

「人間だからミスはつきもの」と簡単に片づけてはいけない、ということになります。

 

ハインリッヒの法則

「ハインリッヒの法則」という言葉をご存知でしょうか?

この言葉、社内外研修等でお聞きになったことのある方も多いのではないでしょうか?

 

ハインリッヒの法則とは、1件の重大事故の裏には29件の軽微な事故と300件の怪我に至らない事故がある」というものです。

この法則を提唱したのは「ハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ」という方です。

ハインリッヒは、損害保険会社に所属する統計分析の専門家です。

彼が工場の労働災害における調査をした結果、「1件の重大事故が起こる背景には29件の軽微な事故と300件の怪我に至らない事故があった」ことを発見し、1931年「災害防止の科学的研究」という本でこの法則を発表したのです。

 

 もはや当たり前だが、それでも声を大にして伝えたい「ヒヤリハット」の重要性

ハインリッヒの法則は、どの分野にもあてはまる話であると思われます。

物流現場においてもハインリッヒの法則の考え方は有効です。労働災害抑止や品質向上において、「ヒヤリ・ハット」を見逃さず対策を行うことで、重大事故を未然に防ぐことが可能になるでしょう。

ハインリッヒが唱えた「1:29:300」の法則は、あくまで確率論であります。

要は、330回目に重大事故が起こるわけではないといことです。

サイコロで考えた場合、例えば「6」の目が出る確率は1/6ですが、必ずしも6回目まで「6」の目が出ないわけではありません。いきなり「6:」が出る場合もあります。

事故も同様で、1回目で重大事故が起きることも十分ありえるのですね。

労働災害にしても品質事故にしても、そして介護現場の事故にしても「ヒヤリ・ハット」が起きた際には「1度目で重大事故にならなくてよかった」と考え、2度目が起こらないうちにできる限り早期に対策を行わなければいけません。

 

ヒヤリ・ハットはまず「共有」

「ヒヤリ・ハット」が起こった際には、関わる関係者内で事例共有を行います。

「○○な状況で○○ということが起きた」

「今回は「ヒヤリ・ハット」で済んだが場合によっては○○になる危険性がある」

というように情報を共有するのですね。

情報を共有して、それぞれのスタッフが十分に注意を払うだけでも、事故のリスクを下げることは十分可能であると言われています。

抜本的な対策には費用や手間もかかるため、実際にはすぐに実施するのは難しいかもしれませんが、情報共有であればすぐに実施できるはずです。

「すぐできること」を先送りする理由は、どこにもないということですね。

心理的安全性

ヒヤリ・ハットを共有する上で必要なのが、組織の心理的安全性です。

「ヒヤリ・ハット」があったときに、本人が「こんなところで事故を起こすのはチームの中でも自分のようにうっかりしている人だけだ」と思ってしまったらどうでしょうか。

組織においてその事例を共有することは難しくなってしまいます。

同じ組織において、一人だけ極端にうっかりしているということは実際にはあまりないのではないでしょうか。

組織には、いろいろ境遇の異なるメンバーが在籍しています。

程度の違いこそ多少あれ、その日の体調や心配ごと等も左右し得ます。

要は、どんなに能力が高い方であっても、メンタルの強い方であっても、皆さんが事故を引き起こすリスクを同様に抱えているということかと思います。

そこで重要なのが、組織の心理的安全性です。

これを高めることで、皆さんが安心して仕事が出来、ひいては安全で品質の高い現場へとつながっていくのではないかと筆者は考えます。

 

訪問看護の現場で起こりうる事故リスク

1.転倒・転落事故

訪問看護の事故の中で、大変多い事故の一つです。

訪問看護では屋外歩行や屋内での移動、入浴介護などをすることがあります。

その際に転倒・転落してしまうと、怪我につながり、ときには骨折などの重傷を負うこともあります。

2.物損事故

訪問看護のスタッフが、利用者宅にある物を壊してしまうという事故があります。

劣化していたものがたまたま壊れてしまったり、誤って障子を破ってしまったり、物を倒して割ってしまったりというケースが挙げられます。

 

3.移動中の交通事故

サービス提供者は、利用者宅に自動車やバイク、自転車などで訪問します。

その移動中に交通事故を起こしてしまう場合もあります。

まれに、利用者宅の駐車場で擦ってしまうといった物損事故・車両事故もあります。

 

4.医療機器取り扱いの事故

訪問看護では医療機器を使用しているご利用者様もたくさんいらっしゃいます。

例えば、在宅酸素療法、人工呼吸器、吸引器、人工肛門、人工膀胱等です。

これらの医療機器の取り扱い方法を誤ってしまうと、やもすれば重大な事故につながります。

 

5.医療ケア中のミス

訪問看護はさまざまな医療ケアを行います。

そのケアの中で、ミスによって事故が生じてしまうこともあります。

例えば、チューブなどの挿入ミス、お風呂のお湯や熱したタオルなどの温度設定ミスによる火傷、薬の間違い、注射のエラー等が考えられます。

 

6.感染

感染も医療事故の一種です。

例を挙げると、疥癬(ダニ)を利用者宅から他の利用者宅に持ち込んでしまったり、新型コロナウイルスの感染対策ができておらず広めてしまったりするケースです。

 

事業所側が注意したいリスクマネジメント

それぞれの事故に対して、訪問看護ステーション側が行うべきと思われる対策を紹介します。

 

1.転倒・転落事故

怪我を防ぐために大切なことは、ご利用者様の心身機能をしっかりと把握することです。

例えば、歩行が不安定な方や、めまいがある方に対しては、動くときに見守りをする。認知機能が低下している方に対しては、目を離さないようにするといった工夫です。

 

また、訪問看護は常に一人が同じご利用者様宅を訪問するというわけではありません。

そのため、常に事業所内外で情報共有をして、ご利用者様の理解を深めることも大切になります。

 

2.物損事故

利用者宅の物に留意する必要があります。そこで大切なのは、必要最低限のもの以外には触れないようにすることも必要でしょう。

また、スペース確保のためにやむを得ず物を移動しなければならないときは、なるべく家族にお願いすることをおすすめします。

 

3.移動中の交通事故

都市部は自転車での訪問も多いですが、都市部以外は自動車での訪問が非常に多いことでしょう。

住宅地など狭い道を運転することもあるため、社用車はなるべくコンパクトな車が良いでしょう。

自分の車でない場合は車幅や仕様など慣れていないこともあるため、普段の運転よりも十分に注意を払う必要があります。

また、毎回運転時にミラーの位置の確認などを怠らないようにすることも大切です。

焦らないで移動できるよう、時間に余裕を持ったコース設定やスケジュールを組み、安心して訪問ができるように工夫できるとよいですね。

 

4.医療機器取り扱いの事故

訪問看護で取り扱う医療機器はさまざまな種類があり、さらにメーカーによっては手順が異なる場合もあります。

医療機器は年々変化しているため、事業者側で取り扱い方法を確認する勉強会などを定期的に開くことが大切です。

当法人でも定期的に行ってはおりますが、時には機器メーカーの担当者を及びし、操作説明会を実施することも一法です。

わからないことがあれば、どんなに些細なことでも質問して疑問を解消するようにする。

決して「わからないまま」の状態で、でケアを実施することがないようにしなければなりませんね。

「忙しいのに他のスタッフさんに質問するのは申し訳ない」となりうる職場環境は、一掃させることが必要です。

これが横行しているうちは、前述した「組織の心理的安全性」に逆行していると言えるでしょう。この状態で、事故が未然に防げるとは思いにくいです。

 

5.医療ケア中のミス

基本的な医療的ケア方法でも、その人ごとにやり方が異なる場合があります。

そのような人に対して、復習の意味も込めてケアを統一して行うことができるようにマニュアルを作成しましょう。

 

訪問看護は緊急訪問などもあり、普段あまりケアしていない人にケアをすることもあります。

安全性の観点では、理解不十分でケアにあたるより、マニュアルを見ながらでも安全にケアする方を重視すべきではないでしょうか。

 

サービス業において、いわゆる「マニュアル的な仕事」という表現は良い意味に使用されない傾向があります。

しかし、このような機器の操作手順は、マニュアル化を徹底することが重要ですね。

「誰でも手順通りに操作すれば、正常に使える」レベルを目指すことで、事故を未然に防ぐ可能性は広がるでしょう。

 

6.感染

「持ち込まない」「持ち帰らない」を基本として、手洗い、消毒、マスク、ルームシューズやスリッパの装着、ガウン、フェイスシールドなどを状況に応じて対策することが大切です。

当たり前の話ではありますが、感染対策に関してもマニュアルを整備して、誰もが同じ対応を取ることができるようになると良いですね。

 

まとめ

今回ご紹介した事例等は、少しだけ冷静になって考えれば(そうでなくても)「そんなの当たり前でしょう」と思われることばかりかもしれません。

しかし、そういう慢心が、重大な事故を生みかねません。

今回の静岡の認定こども園においても、普段は一つひとつのリスクにおいては皆さんが「そんなこと、言われなくても常識だ」と思われたことでしょう。

しかし、悲しい事故は発生してしまったのです。

 

決して風化させてはいけません。

このような悲しい事故を、ただ「かわいそう」で終わらせてしまってもいけません。

 

私たちは、これを教訓にし、ご利用者様やスタッフさん、地域の方々の安全と安心を守るために、最善を尽くさなくてはならないと、改めて強く認識した次第です。

 

今回もお読みいただきまして、誠にありがとうございました。

当法人の訪問看護サービスの魅力についてもっと知りたい!と思われた方、お気軽にご連絡くださいね。