介護におけるアウトカム評価~訪問看護サービスにどう活かすか~

こんにちは!東京都江戸川区のユニケア訪問看護リハビリステーションでございます。

 

介護や医療の業界では慢性的な人手不足に悩まされており、また少子高齢化により社会保障費が膨れ上がり、国もいかにして限られた社会保障費を適正に運用していくかについて頭を悩ませていることについては、本コラムでも繰り返し取り上げてまいりました。

 

介護サービス事業所や医療機関には、単にご利用者様にサービスを提供すればよいというだけでなく、いかに効率よくかつ効果的に提供できるかが求められております。

 

近年、介護や医療において注目されている言葉に「アウトカム評価」というものがあります。

今回はこの「アウトカム評価」について取り上げ、その詳細についてご紹介するとともに、今後私たちが訪問看護サービスを提供していく上で何に留意していくべきかについて考えていきたいと思います。

 

私たち訪問看護師だけでなく、すべての介護サービス従事者様にとって非常に重要な考え方であると思いましたので、是非お付き合いいただけますと幸いです。

 

そもそも「アウトカム」とは何か?

もともとアウトカムとは、ビジネスの世界でよく使われている言葉です。

では具体的にアウトカムというのが何なのかについて、ご紹介したいと思います。

以下、少々堅苦しい話になりますがご了承くださいませ。

 

アウトカムとは、企業が提供する商品やサービスが、実際の業績や社会に与えた影響のことをいいます。

要は、何らかの施策を実施した際に得られる、最終的な「結果」「成果」のことです。

 

商品サービスを例に挙げますと、企業は他社と比較して品質や機能の高い自社商品の製造法、マーケティング、コストなど、利益を生み出すために必要な要素を検証し、最終的にお客様が求める商品やサービスを開発・提供しています。

 

上記のように「品質」「製造法」「優れたマーケティング」「安いコスト」等といった要素の1つひとつが、アウトカムすなわち成果に影響を与えています。

 

ビジネスではどうしても「利益を生み出す」という結果に目を向けがちです。

利益を上げるのは当然必要なわけですが、自社が提供した商品やサービスによってどの程度の効果や影響があったのかといった、アウトカムの評価が必要です。

 

医療における「アウトカム」の背景と問題点

先程、アウトカム評価について少々堅苦しい説明をしてしまいましたが、介護医療、特に介護においてこのアウトカム評価という考え方が必要になってきたのには、歴史的な背景があります。

 

医療では、何らかの症状がある患者様に対して医師が診察し、症状の原因を究明するために検査をし、診断をする。

そしてお薬の処方等で治療をし、症状が治まれば基本的には治療終了という運びになります。

 

入院治療においても、医師が患者様を診察して診断をし、入院の必要があると主治医が判断すれば入院となります。

おおよその入院期間が設定され、患者様は入院療養をすることになります。

患者様は服薬や検査等の治療をし、療養をした上で退院OKと判断されれば、程なくして退院となります。

 

ここで考えたいのですが、一つひとつ医療行為は、患者様の症状を診察し、診断し、治療するという複数の「要素」から成り立っていて、最終的に治癒という「結果」「成果」を目指すもののはずです。

そういう意味で、医療サービスはアウトカムの考え方そのものであるといっても過言ではないわけであります。

リハビリテーションも全く同様です。

当事業所にはセラピストが何人も在籍しておりますが、リハビリはもっと「成果」「結果」という考え方に忠実で、リハビリテーションによりどの程度成果が上げられるかについて真剣に取り組んでいます。

 

半面、社会的入院やお薬の過剰処方が問題になったように、治療の成果や結果をあまり重要視していない現状が過去にあったのも事実であります。

 

超高齢化が問題視される前の時代であれば、それも許されたでしょうが、今やそういう考え方は通用しません。

 

最近本格実施となった科学的介護情報システム(LIFE)では「エビデンス」という言葉が盛んに使われています。

 

先程掲げました医療について、厚生労働省のホームページでは「科学的根拠(エビデンス)」に基づき実施されていることを図解した資料を公開しております。

介護ではもっと深い問題を抱えてきた

介護の業界においては、もっと問題は深かったと思います。

介護サービスは「要介護者様の生活を支える」ことはメインであり、一つひとつの介護行為は数値化しにくい部分があります。

 

数値化しにくいということは、評価がしにくいということ。

 

もっとも、例えば要介護度5であった方が、更新により要介護3になったとした場合、介護度だけを見ればご利用者様の状態は改善されていると評価できるかもしれません。

しかし、具体的にどういうアプローチを継続したことによって、その方のADLが改善されたのかについては、単に介護度が下がっただけではよくわかりません。

 

介護サービスは他事業所・他職種連携が基本になりますが、連携はなかなか簡単にはいきません。

横の連携・共有が十分でないと、個々のサービス事業所の努力が当該要介護者様の改善にどの程度貢献されているのかが見えにくく、ひいてはサービス提供者のモチベーション維持にも影響を与えかねません。

 

ここで筆者が最も重要な問題として提起したいのが、介護報酬の設定です。

 

介護サービスの基本報酬は、多くの場合介護度に基づいて設定されております。

訪問介護や訪問看護サービスは「サービス提供時間」による報酬設定がされているため、少々ニュアンスは異なってきますが、例えば通所系や入所系のサービスは「要介護度」に応じて基本報酬が決まっています。

 

先程、医療の例を挙げましたが、本来介護サービスには「ご利用者様の日常生活上の課題を見つけ、適切なサービスを位置づけ、評価し、一定の成果を目指す」という重要な目的があります。

分かりやすく言えばADLの改善が目的のひとつとなります。

 

私たち訪問看護師を含め、介護業界で活躍されている方々は「ご利用者様に元気になってほしい」「いつまでも余生を楽しんでほしい」等といった思いをもって、日々お仕事をされているはずです。

 

しかし現状の介護報酬の設定は、アウトカムとは逆行したものとなっています。

要介護度別の報酬設定の場合、重度になるにつれ高い報酬額が設定されています。

これには異論の余地はありませんが、同時に重要な欠陥があると考えます。

 

何が重要な欠陥かというと、サービス従事者様が頑張って介護をし、ご利用者様の介護度を下げる結果となっても、基本報酬が下がってしまうということです。

 

要は、介護サービス事業者がいかに努力してよいサービスを提供し、ご利用者様のADL等を改善したとしても、見返りが少ない(ほとんどない)ということを意味するのです。

 

近年、介護の業界では、この見返りについて「インセンティブ」という言葉を使っていますが、このインセンティブという報酬設計ははっきり言って不十分であり、非常に大きな問題であります。

 

 

介護のアウトカム評価の推進につながるか ~ADL維持等加算の例~

介護サービスはこれまで「プロセスによる評価」を重視してきた傾向があります。

 

しかしそれだけでは不十分。国も、アウトカム評価という考え方を介護に本格導入する必要性を認識し、いろいろな施策を講じてはいます。

その一つに「ADL維持等加算」というものがあります。

 

簡単に申しますと、事業者が利用者の自立支援・重度化防止に繋がるサービスの提供を促す「インセンティブ」のことです。

 

評価期間の中でADLの維持または改善の度合いが一定の水準を超えている事業所を評価し、次年度の介護報酬に上乗せ加算するというもので、いわゆる「アウトカム評価加算」といわれております。

この加算は2018年度介護報酬改定で新設されたのですが、算定要件が厳しい割に報酬が低いのが実情でした。実際全国的に取得率も低く、また認知症への視点が抜けているという点が問題になっておりました。

 

そこで、2021年度介護報酬改定により単位数を引き上げ、算定要件が緩和されることになったのです。

 

BI値(バーセルインデックス)とは?

ADL維持等加算の算定に重要なツールとして「バーセルインデックス(BI)」というものがあります。

 

バーセルインデックスとは、日常生活動作(ADL)を評価する指標です。

 

評価の実施者については、過去「機能訓練指導員」に限られておりましたが、今回の改定により「適切に評価できる者」に変更となりました。

 

具体的には、厚生労働省が作成したADL評価マニュアルや動画等の活用や所定の研修を受講した者がADL評価を行った場合に、この算定が算定可能となったわけです。

主として通所介護において、ADL維持等加算の積極的な算定が期待され、対象サービスも拡大しております。

 

バーセルインデックスの評価表と採点方法

ADL維持等加算のアウトカム指標には、バーセルインデックスを活用することが決められています。

 

評価指標は、前述の通りADL10項目です。

各評価項目に対して、「自立」「一部介助」「全介助」の3つの選択肢を選び、それぞれ0点から15点で採点します。

 

採点が比較的簡便でわかりやすいのが特徴です。

評価指標が大まかであり採点の粒度が粗いという難点もありますが、世界共通の評価方法として広く活用されています。

 

計算方法ですが、基本的には「自立10点」「一部介助5点」「全介助0点」です。

移乗と歩行は自立が15点、整容と入浴は自立が5点になっており、移乗や歩行の配点が高いのも特徴的です。

 

上記の方法で100点満点により評価し、LIFE(科学的介護情報システム)に提出するということになります(具体的な運用については省略)。

 

アウトカム評価を訪問看護にどう活かすか?

訪問看護サービスにおいても、サービスを提供したことによってご利用者様がどのように改善されているのかという「結果」を重要視しております。

 

例えば、褥瘡の処置が上げられます。

 

私たち訪問看護師は、ご利用者様ADL低下や栄養状態の悪化等で生じた褥瘡を治すために、懸命な努力を重ねております。

 

褥瘡にあるご利用者様については、訪問の都度洗浄・軟膏塗布・ガーゼやフィルムの貼付・体位変換等を行い、画像を残して関係者と連携共有し、時に主治医の先生の指示をいただきながら評価をしています。

 

また、精神疾患のある患者様に対しては「GAF尺度」という評価をしております。

精神障害を有する患者様への適切かつ効果的な訪問看護の提供を推進する観点から、利用者の状態把握等を行うことが可能となるようにするために行われております。

 

精神科訪問看護基本療養費を算定する場合には、この評定を療養費明細書に記載することが必要になります。

 

この「GAF尺度」というのも、毎月評価することにより、患者様の精神状態や日常生活の状況がどのように変化しているのかを確認し、サービスに活かしております。

 

上記のように、訪問看護においてもいかにして患者様の状態を改善していくかについて工夫をし、質の向上に努めております。

 

今後は、当事業所の取り組み等について、事例等をご紹介する機会が設けられればと思っております。

 

今回もお読みいただき、誠にありがとうございました。

ユニケア訪問看護リハビリステーションでは、皆様にとって少しでもお役に立つ情報をこれからも発信してまいります。

 

地域医療を担う一員として、皆様と手と携えながら、訪問看護ステーションとしての本分を全うしていきたいと考えております。

 

【参考URL】

科学的介護情報システム「LIFE]解説資料(厚生労働省)

2021年度介護報酬改定に関する審議報告(厚生労働省)

バーセルインデックスの評価方法について YouTube

ケアニュース byシルバー産業新聞

ハートページ(画像のみ引用)

公益社団法人 日本看護協会HP