こんにちは!東京都江戸川区のユニケア訪問看護リハビリステーションです。
今回のコラムでは、訪問看護をはじめ介護サービスを行う上で役に立つと思われるビジネス用語を3つほど取り上げさせていただきたいと思います。
言葉自体は小難しいかもしれませんが、どれも普段の仕事の中で事例となるものばかりです。以下をお読みいただければ、きっと腑に落ちるものと期待しております。
どうか最後までお付き合いいただけますと幸いです。

1つめは「社会比較ナッジ」という言葉です。
ナッジ(nudge)は英語で「肘でつつく」という意味です。
子どもの頃、夏休みの宿題を早く終わらせた方が良いと思っていても、先延ばしをしてなかなか実行できないという経験をもっている方は多かったと思います。
正直、筆者もそのような時期がありました笑
何とか計画通りに進めるために、スケジュール表をよく見えるところに貼ってみたり、友人と競争したり、親に頼んでちょっとしたご褒美を設定してもらったりして、細かな工夫を重ねて、自分自身の背中を押してきたのではないでしょうか?
大人になっても、やるべきことがなかなかできない、という場面が多くあります。
「期限までに支払いを完了しなければ」「症状が悪化する前に病院に行くべき」「地球環境のために省エネや節電を心がけないと・・・」と頭では理解していても、自力で実行することはなかなか難しいものです。皆様も、程度の差こそあれ、同じような思いをされたことがあるのではないでしょうか。
そこで、ちょっとした工夫を施して働きかけ、私たちの背中を押すことで、自身にとっても社会全体にとっても望ましい行動を実行しやすくする。
このような行動のことを「社会比較ナッジ」とよびます。
私たちは訪問看護サービスを行っておりますので、高齢者を中心とした皆さまの健康管理・療養支援だけでなく、健康増進については深い造詣をもって日々取り組んでいるつもりです。
とはいえ、不用意に(決して悪意はありませんが)ストレートな物言いで相手に対してコトを促そうとしがちです。
「こうしてはいけませんよ」「こうしなければダメですよ」等々・・・
また、社内スタッフに対して何か指示をしようとした際に、「こうしてください」「それはしてはいけません」といっても、指示を受けた側は腑に落ちないということもあるのではないでしょうか。
そこで役に立つのが「ナッジ理論」なのです。
ここでは、ナッジ理論の一例として「健康診断やがん検診の受診率向上への取り組み」についてご紹介しましょう。
健康診断やがん検診が大切であることを否定する人は、恐らくほとんどいないでしょう。
しかし、自分が健康であるうちは、自分事としてはなかなか捉えにくいものです。お金もかかりますし、忙しいとついつい後回しにされがちです。
健康診断やがん検診の受診率を高めようと思ったときに、このナッジ理論が役立ちます。例えば、「全体の90%の方が受診しています」「時間はたったの40分!」などと、数値を交えながら発信することでハードルを下げ、周囲の方々の背中を押す形で徐々に受診率が高まる、という具合です。
生存バイアス(または生存者バイアス)とは、認識や思考の偏りを意味する認知バイアスの1種です。これも、私たち訪問看護師が普段仕事をしていく中で役に立つ理論化と筆者は考えます。
認知心理学の用語である生存者バイアスは、失敗した対象を見ずに、成功した(≒生存した)対象のみを基準に判断をしてしまうことをさします。

よく語られる例として、ウォールドによる第二次世界大戦中の戦闘用飛行機の分析例が挙げられます。上記の画像は、生存者バイアスについて解説されているWikipediaサイトから引用しております。
上記の「戦闘機」の例に戻ると、戦時中は資源が限られているため、機体の装甲を効率よく強化するために、最も攻撃を受けやすい箇所を特定する必要があったわけですが、被弾しながらも無事に帰還した機体を調査したところ、コックピットおよびエンジンには弾痕が無いことが判明しました。
そこで幹部は、コックピットとエンジン以外の部位の装甲を強化しようという結論に至ったのです。
しかし、ここで考えてみましょう。
一見正しい結論のようですが、もっと重要な事実を見落としていたのではないでしょうか、と。
コックピットやエンジンに被弾した機体は、それが致命傷で帰還できなかったという事実を見落としていたのです。
尾翼などが被弾したことも問題ではあるものの、それでも帰還できたわけです。
ですので、一見乱暴な言い方に聞こえてしまいますが、そういう「成功例」は置いておけばよく、逆に「帰還できなかった」理由こそ研究する必要がある、ということです。
今後戦闘機を強化するための方針として、コックピットとエンジンをより強化しようという考えに落ち着きました。
私たちが日々仕事をしている中でも、同様の傾向が散見されるのではないでしょうか。Webサイトや書籍等においても「成功事例」を紹介する者は多く、成功の共通点のみに着目して、同じことを推奨する事例は少なくないようです。
筆者自身は、成功事例から学ぶことも大変有効であると思います。
しかし、同じことをやっても「失敗した」事例というのも少なくないわけです。むしろ失敗例を分析し、どうして失敗してしまったのか、どうすればもっとよい成果が得られるのかを考え実践することが重要であると、この「生存者バイアス」という言葉は教えてくれます。

ストローマン論法とは、拡大解釈して相手の主張を否定したり、会話の流れを無視して一部の意見だけを切り取って攻撃したりする話し方を指します。
筆者がかつて介護施設で施設長を務めていた際に、実際にスタッフから言われた経験談をご紹介いたします。
筆者「昨日かいて下さったケース記録の〇〇の内容について、少し詳しくお聞かせいただけますか?」
現場スタッフ「書き方がよくわからなかったので、わかる範囲で書いてみました」
筆者「記録の書き方についてはマニュアルもありますから、参考にしてはいかがですか」
現場スタッフ「マニュアルは見ました。それでもわからないのです。私がバカだとおっしゃるのですね。ひどすぎます」
上記は、実際に筆者が経験したお話です。
筆者はこのスタッフさんをたしなめたかったのでは断じてなく、単に記録の内容についてお聞きしたかっただけです。ご家族から受けた質問において、このスタッフが書いてくれた記録に関連する内容が含まれていたので、お聞きしようとしたわけです。
しかしそのスタッフは、まるで筆者に人格そのものまでを否定されたと思ったようです。
こうなってしまうと、話がこじれて無駄に長引いてしまうばかりか、相手の主張を強引に押し通されてしまいかねません。現に筆者はそのスタッフの人格否定をしたのでは毛頭なく、単にご家族からいただいた質問に答えるために、関連する記録について確認をしたかっただけです。
そのスタッフの主張はまさに「ストローマン論法」そのものでした。これを振りかざされてしまっては、取りつく島もありません。
そうした事態を防ぐには、どういうことに気をつければよいのでしょうか。
何かの議論をしようとする際に、その議論の趣旨を明確にすることが必要でしょう。
そして、自らの主張をブレることなく提示し続けることが大事ですね。
話を聞こうとする際には「あなたを責めるのではない」「事実の確認をするだけで、決してあなたの評価を下げるために聞くのではない」と一言前置きしておけば、もしかしたらこのようなことにはならなかったかもしれません。
筆者もあのとき、スタッフさんにお聞きするにあたって「唐突」に切り出してしまったかもしれないと、反省しました。
私たち訪問看護師も、ご本人やご家族と接する際や職場の仲間と話をするにあたり、いつこのような事態に遭遇するかわかりません。もっと言ってしまえば、このようなことは常に起こり得るということを肝に銘じなければなりません。
一度話が歪んでしまうと、以降の修復は至難の業となります。
生産的な話し合いを通じて早期に問題を解決するためにも、「そもそも何についての話なのか」を意識した対話を心がけるべきですね。
今回は、介護サービスを提供する方々にとって役に立つ「ビジネス用語」を3つご紹介いたしました。
ユニケアでは、今後も皆様にとりまして有益な情報をお届けすべく、これからも努力を重ねてまいります。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。